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岸和田簡易裁判所 昭和33年(る)7号 判決 1958年9月17日

申立人 吉野幸次

決  定

(申立人氏名略)

右の者同人に対する傷害被告事件につき正式裁判請求権回復の申立をしたので当裁判所は左のとおり決定する。

主文

当裁判所が昭和三三年四月五日附でなした被告人吉野幸次に対する傷害被告事件の略式命令はこれを取消す。

昭和三三年三月三一日附同被告人に対する傷害被告事件の公訴はこれを棄却する。

理由

本件申立の要旨は「申立人に対する傷害被告事件の略式命令は、昭和三三年七月一日和泉市府中町において、申立人と同居人である源秀春に送達されたものであるが、当時申立人は病気のため入院しなければならぬような状況にあつたので、源は、申立人の病状悪化を慮り、同命令を申立人に手渡さず同人において保管していたが、その後申立人は入院し全快退院後も失念のまま放置されていたところ、同年八月初頃検察庁より申立人に対し、罰金納付命令が送達されたので、申立人は源に事情を聞き質した結果、始めて同人から本件略式命令の謄本を受取り、正式裁判の請求をした次第で、同正式裁判請求期間の徒過は右事情により申立人の責に帰すべき事由がないので本申立に及んだ」と云うにある。

申立人に対する傷害被告事件の略式命令が、昭和三三年四月五日附で発せられ、その謄本が同年七月一日和泉市府中町において、申立人と同居人である源秀春に対し送達せられたことは関係記録によつて明らかであつて、当裁判所において取調べた、源秀春及び申立本人の各供述並びに申立人提出の証明書を綜合すると、源秀春は申立人の雇主であつて、同人が本件略式命令の送達を受けた当時、申立人は、相当重病であつたので、病状の悪化を慮り、同命令を申立人に手交せず、同人において保管していたが、申立人が同年七月七日に府中病院に入院し同月二三日退院後も、その事を忘却し、そのままにしていたところ、同年八月初頃に至り、検察庁より申立人に対する罰金の納付命令が来たので、申立人は源に事情を聞き質したところ、源がその事を忘却し略式命令謄本の保管場所も判らなかつたので、保管場所を捜すなどして漸く同年八月一〇日か一一日頃に至つてこれを発見し、その時初めて申立人は本件略式命令の内容を知つた事実が認められる。

ところで右事実によると、申立人は昭和三三年七月一日本件略式命令の送達当時は、その事実を知らず、同年八月一〇日か一一日頃に至つて前認定のような事情で、同命令のあつたことを知つたのであるから、この時に始めて同命令の送達告知があつたものと解するのを相当とするところ、ひるがえつて、本件公訴の提起をみるに、その提起の年月日が、同年三月三一日であることは、記録上明白であるから、右公訴提起後、申立人に対し略式命令が告知される迄の間に四ヶ月の期間が経過していることとなるので、刑事訴訟法第四六三条の二第一項により、本件公訴は無効のものと云わねばならない。よつて、当裁判所が先きになした本件略式命令を取消すと共に、同公訴も亦無効のものとしてこれを棄却すべく、同条第二項により、主文のとおり決定する。

(裁判官 中島清吉)

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